韓国の暮らしの道具、「ソバン」とはなにか

「ソバン」(小盤)

古くから上層階級から大衆まで使われている韓国のお膳のような物を知っているだろうか。日本にもかつて箱膳と呼ばれるお膳で食事をしていた時代があったが韓国にもこのソバンという物を使って食事をする文化がある。

生活スタイルが大きく変わり、日本で箱膳を使って食事をすることはほとんど見なくなった。それと同じように韓国でソバンを使って食事をすることも少なくなっているようだ。しかし、大きさも形も多種多様なソバンには現代の生活の中で実用できる道具として使用できるのではないかと私は思う。また、ソバンが、どうして韓国で大衆的な物として人々に使われてきたのか、産地によって異なる特徴やさまざまな用途に着目して見てみると韓国の生活文化と密接に関わっているところが見えてくる。

目次

韓国の文化とソバン

まず最初に日本の箱膳について触れ、その後に韓国のソバンについて書いていこうと思う。それぞれの国のお膳を比較することでソバンが韓国で大衆的になった背景が見えてくる。

日本の箱膳

「一汁一菜」。主食であるお米と1つの汁物、1つのおかずと漬物などの香物を組み合わせた献立のことである。

住宅がアパートやマンションも多くなり洋室化が広まった現在、日本では脚のついたテーブルに料理を置き、椅子に座って食事をすることが一般的だ。高度経済成長期(1975年)ごろから現在のテーブルを使う人が多くなったと言われている。

食卓の歴史をもう少しさかのぼって見ていくと一家団欒の理想が広まった明治〜大正時代にかけてはちゃぶ台が一般的だった。さらにそれ以前は、1人1人に小さなお膳がありそこで食事をすることが普通であった。

1人1つのお膳で食事をしていた時代、献立は一汁一菜のようなものであった。箱膳と呼ばれる下に引き出しが1つついたお膳の上で食事をし、食事が終われば香物で茶碗をなぞり食べる、お茶碗にお茶を入れて飲む。そして食器を水洗いせずに引き出しの中に収納してお膳ごと片付ける。井戸のない家も多く、共同井戸や川から水を汲まなければならないし、大家族の食器は洗うのに時間がかかったことと油を使った料理が今よりも少なかったことが関係しているようだ。加えて、1部屋が多用な役割を担っていたので今のような大きなテーブルだと場所も取ってしまう。

以上のように食事の献立と住んでいる環境が関係して日本では箱膳を使った食事スタイルが大衆的となったのである。

韓国のソバン

一方、韓国では食事を置く盤とそれを支える脚で構成されたソバン(小盤)が大衆的なお膳として使われる。

韓国でソバンが使われるようになった背景には、日本の箱膳と同様に住居や食と関係していたようだ。

韓国の住居

韓国の伝統的な住居の特徴の一つに「温突(オンドル)」がある。オンドルとは今でいう床暖房のようなもので、床下に煉瓦などで仕切った排気ガスが抜ける道をつくり、焚き口から煙を送り込んで床下から部屋を暖める仕組みだ。

この温突を使用した部屋の床はどうしても熱くなり家具をいためてしまう。そのためソバンをはじめとする脚がついた家具を使用し床との接触を少なくして一般的になったようだ。また、オンドルでの生活では、焚き口がある部屋から少し低くなった土間にある台所で準備を済ませて中庭や板の間を経てそれぞれの部屋に運搬するため、台所でお膳にのせて部屋まで運べるソバンはとても理にかなっていた。

加えて、韓国は年長者を敬い血縁を大事にする儒教の文化がある国である。この儒教文化により伝統的な韓国の住居は身分・男女・長幼で部屋を分かれており住居スペースがそれぞれ異なっている。そのため台所で食事を準備して各部屋に運ぶという点でもソバンは適していたと言える。

韓国の食べ方

韓国のソバンには脚がついていて日本の箱膳より高くなっている。理由は韓国の食べ方が関係しているようだ。

日本では器を持たずに顔を近づけて食べることは「犬食い」と呼ばれ行儀が悪いとされる。自分が近づくのではなく、お椀を手で持ち顔に近づけて食べるのが日本の食べ方だ。

なぜこのような食事スタイルになったのか、理由の1つに器があげられる。日本では木でできたお椀を使用して食事をすることが一般的であった。木でできた器は熱が伝わりづらく、熱いものを入れても手に持つことができる。さらに日本で使われていた箱膳には脚がなく低い。そのためお箸で食べものを掴み口まで運ぶ距離が遠く、落とさず食べるには器を手でもちお箸で運ぶ距離を短くする必要があったのだ。こうして日本では器を手に持って食べる食べ方が一般的にとなった。

しかし韓国では真逆だ。韓国では器を持って食べることは乞食の食べ方であるとして行儀が悪いとされる。韓国では器を置いたまま匙を使ってすくい、顔を近づけて食事する。このようなスタイルになったのは日本と同じように使用する器が関係しているようだ。

韓国では主にステンレス製の器を使用する。確かに韓国で食事をするとご飯は銀色の器に盛られて配膳されるし、お箸も日本のように木ではなくステンレスのもので食べる。加えて、韓国の料理は汁物が多い。そのため匙で食べる文化が定着し、1950年代から安くて持ち運びが容易なステンレス食器が広く普及した。

ステンレス食器に熱いものを入れると器が熱く、日本のように手で器を持つことはできない。そのため韓国では食事を置いて食べるようになったと言われている。そして、韓国のソバンの特徴は脚がついていることである。熱くて器を持つことができないぶん、口に落とさないように食べ物を運ぶには料理がのっている盤そのものを高くしたのだ。

ソバンが料理を置く盤に脚がつく形になっているのは、韓国の食べ方が大きく関係しているのだ。

ソバンについてあれこれ

ソバンの産地

韓国の色々な地域でソバンは作られているのだが、どの地域でも同じものが作られているわけではない。装飾の有無や脚の形にそれぞれの違いがある。

①羅州盤(ナジュバン)

地域:羅州

特徴:飾りが少なく木目がそのままみえる漆を使用。丈夫で透明で柔らかい。盤と脚をつなぐ際に雲のような形をした板で挟むことで耐久性を上げていることと脚が上から下にかけて細くなっていくような形がよく見られる。

②海州盤(ヘジュバン)

地域:海州(現在は北朝鮮)

特徴:牡丹や蓮の花、卍字など華麗な装飾が多く使われる。緻密な透かし彫りが施された側板。側板に装飾を加える理由として美しさを出すことはもちろんだが、重量を軽くするという実用的な理由もある。

③統営盤(トンヨンバン)

地域:統営

特徴:盤部分と脚部分が一体となっていて丈夫でありながらナジュバンに比べて製作が容易であり実用的。工芸がたくさんある地域であり古くから螺鈿細工の産地である。そのため、盤に華やかな装飾が施されることも多い。

④忠州盤(チュンジュバン)

地域:忠州

特徴:天板が多角形が多く、脚の形状がS字型やJ字型などの変わった形が見られる。虎の脚のように脚の先が外向きなものを虎足盤(ホゾクバン)、犬の脚のように脚の先が内向きのものを狗足盤(クゾクバン)というように動物の脚がモチーフとなっている。

ソバンの材料

先ほど紹介したようにソバンの産地は韓国の中にいくつかある。そのため基本的にはその土地で生育する木を使って作っていた。ソバンを作る際、盤部分と脚部分で使用する木の種類が異なる。

ソバンの盤の部分には軽くて丈夫ということが求められるためイチョウが使われることが多く、他にもケヤキやシナノキが使われることもある。脚の部分には強度があり、加工もしやすいマツが使用される。

ソバンは決して芸術品のようなものではなく生活の中で使用される道具であった。そのことから食事を置いたときに安定するかどうかの耐久性、女性が配膳する際に重くて苦労することなく運ぶことができるかなど、実用する上での機能性もよく考えられて加工されているのである。

参考資料

https://www.konest.com/contents/korean_life_detail.html?id=22698 韓国旅行「コネスト」 韓屋(ハノッ)~韓国の伝統家屋 | 慣習・生活文化・住まい | 韓国文化と生活

飲食空間における坐法とテーブルとのかかわりに見られる社会的・文化的要因の表れ方 : 韓国と日本を例として : 行動環境計画の観点による調査研究 権寧徳 [著] ([権寧徳], 2001)

韓国における伝統的住居とその屋内空間について 申珠莉 [著] (1992)

現代韓国における生活様式とくつろぎの座具に関する研究序説 : 韓・日における伝統と近代化の比較の視点から 金眞玉 [著] ([金眞玉], [2000])

Koreana : 韓国の文化と芸術 6(3) (Korea Foundation, 1993-11)

https://dazaifu-bunka.or.jp/info/letter/detail/42.html 太宰府市文化ふれあい会館 学芸だより 箱膳

https://www.mitsubishielectric.co.jp/club-me/knowledge/washoku04/02.html 三菱電機 CME(CLUB MITSUBISHI ELECTRIC)

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この記事を書いた人

足袋の町、埼玉県行田市で生まれ育つ。
海外から帰国後、日本のものづくりに心を奪われ続ける。
歴史や背景などのストーリーがあるもの、作っている人の思いが詰まっているもの、こだわりで溢れているものに心が熱くなる。
服、旅行も好き。そして人の笑顔も好き!!

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