薩摩切子ってなんだろう?

薩摩切子の二色衣

鹿児島市内から約15分霧島方面へ進むと薩摩切子と出会える場所がある。

「島津興業 薩摩ガラス工芸」である。

実際に行ってみて思ったがここは薩摩切子を初めて知る人にもとてもわかりやすいところだなと思った。

ショップと工場が隣接しているため誰でも気軽に薩摩切子に触れることができるとてもオープンな場所だ。

今回は薩摩切子とはどういうものなのか、そしてこの島津興業 薩摩ガラス工芸について伝えていこうと思う。

目次

薩摩切子について知る

薩摩切子とは

薩摩切子とは鹿児島県の県指定伝統工芸品の1つでもあるガラス細工の1種だ。

透明のガラスに紅や藍などの色ガラスを被せ、カットして模様を作っていく。

「ぼかし」と呼ばれる美しいグラデーションが最大の魅力だ。

写真のように光があたり反射して輝く色とりどりの薩摩ガラスが並んでいるのをみたら『お、きれーい』と思わず口にしてしまうだろう。

薩摩切子が並ぶ

美しさの裏には一度途切れた背景がある

驚くことに薩摩切子の歴史は意外と短く始まりから30年ほどで一度なくなってしまっている。

薩摩切子の始まりは国を豊かにしようと海外との交易品として作られたところである。

ガラスに色をつけるなど順調に発展していったが、島津斉彬(しまずなりあきら)という当時のキーマンの急死や戦争による工場の消失により薩摩切子の技術は途絶えてしまったのである。

薩摩切子の二色衣
新しい薩摩切子の技術「二色衣」で出来たグラス

1度途絶えてしまった薩摩切子だが、約100年後今回訪れた島津興業によって復活する。

残された資料を頼りに熱心な研究によって当時の色の再現に成功したのであった。

さらに「二色被せ」という二色のガラスを重ねて色を作り出す新たな技術の開発にも成功したのだ。(上の写真は二色被せで作られた薩摩切子)

途絶えてしまった技術を復活させようと立ち上がったこと、再現することだけにとどまらず技術を進化させたこと。

現代に薩摩切子が存在するのはこういった重要な背景があるからなのだ。

薩摩切子はこうやってできる!

工程

薩摩切子の工程

薩摩切子ができるまでの工程は大きく5つ。

①色きせ:内側は透明ガラス、外側は色ガラスの2層を作る

②当たり:紋様に合わせた分割線を引く

③カット:円盤を回転させて切り込みを入れて紋様を彫る

④磨き:3種類の磨き工程で仕上げていく

⑤検査:検査結果がいくつもあり場合によっては前工程に戻される

実際に見てみよう!

島津興業 薩摩切子工場では実際に作られる工程を見学することができる。

工場内の写真と合わせて工程を詳しく解説していく。

①色きせ

内側に透明ガラス、外側に色ガラス。それぞれ別々に巻きつけられた2つのガラスを1つに密着させて2層のガラスを作る工程。

色きせの前に「たね巻き」という工程がある。

「たね巻き」とはドロドロに溶けた透明ガラスと色ガラスを2人1組で別々のステンレス竿に巻き付けていく工程だ。

薩摩切子のたね巻き

別々のステンレス竿に巻かれた透明ガラスと色ガラスは密着させる色きせの工程にうつる。

色ガラスの内側に透明ガラスを入れて2つのガラスはここで1つになる。

色きせが終わった色ガラスはこの後、加熱炉で形を整え、ゆっくり時間をかけて冷まして模様を作る工程に移っていく。

②当たり

模様に合わせた分割線を油性ペンで引き、模様の位置を決める工程。

③カット

ダイヤモンドの円盤と砥石を回転させて切り込みを入れ模様を彫る。「荒ずり」と「石かけ」という2つの工程からなる。

最初に「荒ずり」というダイヤモンドの円盤を高速回転させてガラスの表面を削っていく工程。

電気で照らしながら切り込む角度、深さを細く調整しながら削っていく。

ガラスの表面を削り込んで模様を作っていく。

色ガラスが削りとられて透明ガラスが模様となって姿を見せる。

次に「石かけ」という砥石を回転させてさらに削る工程。

表面を整え、細かい模様を入れて仕上げていく。

2つの削る工程を経てついに薩摩切子の特徴である「ぼかし」と呼ばれる美しいグラデーションが姿を見せるのだ。

④磨き

3段階の磨き工程で仕上げていく。「木盤磨き」「ブラシ磨き」「バフ磨き」の3段階。

(A)木盤磨き

木や研磨剤が混ざった樹脂の円盤を回転させて線や面を磨く工程。

水でペースト状にした磨き剤をつけながら磨いていく。

木盤磨きをしているところ。力は適度に抜きながらやっているとのこと。
(B)ブラシ磨き

竹の繊維でできた円盤を回転させてさらに細かく磨いていく工程。

左がブラシ磨きに使う円盤、右がバフ磨きで使う円盤。
(C)バフ磨き

布製の円盤を高速回転させて磨いていく工程。

バフ磨きをしているところ。角度や場所を変えながら磨いていくのがわかる。

バフ磨きはわずかなくもりを取り、光が均一に反射するようにする仕上げとなる工程。

3段階の異なる磨きの工程が美しい薩摩切子の輝きを支えている。

薩摩切子工場に行ってみよう!

薩摩切子工場の面白いところは職人の休憩時間がわかるところだ。

下の写真に書いてあるとおり職人さんが休憩していて作業をやっていない時間帯が書いてある。

見る人に対してすごく親切だし、暖かさがあるなとほっこりした。

薩摩切子工場は有名な有名な観光地である仙巌園のすぐ近くに位置している。

隣には「磯工芸館」という薩摩切子を実際に手にとれる場所がある。まず磯工芸館で薩摩切子に触れてから工場を見に行ってほしい。そして時間があれば最後にもう一度磯工芸館で完成した薩摩切子を見てみてほしい。最初と最後に見る薩摩切子の見え方は全然違うはずだ。

まとめ

薩摩切子とはどんなものなのか、どうやってできるのかをここまで書いてきた。

それは薩摩切子というもの、技術、歴史を知ってもらいたいからという思いがあるからだ。

しかし、今回この記事を書いた理由はそれだけではない。

1番の理由は今回訪れた「島津興業 薩摩切子工場」がものすごく素敵な場所だったからである。

・薩摩切子に触れる場所があり、その隣に工場があるという場所の良さ。

・工程ごとに詳しい説明が書いてあり見る人のことを第一に構成されていること。

・作り手の日常を間近で見れること。

初めて訪れた人や初めて薩摩切子を知った人が直接自分の目で作っている光景や工程を詳しく分かりやすく見れることが本当に素晴らしいと思った。

産地には伝統工芸会館や博物館、ものづくりについて知る場所は確かにある。

でも、難しい言葉をたくさん使ったり、歴史や工程を文字だけでずらーっと並べたり、優しくない説明が続くことが多い気がする。

それは本当に興味がある人は良いのかもしれない。

けれど、これってなんだろうと?と少し興味を持った人に対しては少し意地が悪いようにも思えるし、まるでちょっと芽生えた興味を潰すかのような印象さえ受けることもある。

それに比べて「島津興業 薩摩切子工場」はどのようなお客さんにも寄り添っている場所だ。

文字や絵、写真だけではなく、作っているところを目でみて、触って、音を聞くことができる。

それも予約制や専門家だけではなく気軽に、オープンに、誰でも。

近くに行った時にはぜひ気軽に寄ってみてほしい。

とても素敵な場所だから。

(完)

津島興業 薩摩切子工場

営業時間 :9:00〜17:00

工場定休日:毎週月曜日と第3日曜日(月曜日が祝日の場合、翌火曜日と第4日曜日)

料金 :無料

磯工芸館

営業時間 :9:00〜17:00

営業日 :年中無休

料金 : 無料

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この記事を書いた人

足袋の町、埼玉県行田市で生まれ育つ。
海外から帰国後、日本のものづくりに心を奪われ続ける。
歴史や背景などのストーリーがあるもの、作っている人の思いが詰まっているもの、こだわりで溢れているものに心が熱くなる。
服、旅行も好き。そして人の笑顔も好き!!

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