馬場水車場のお線香

福岡県八女市にお線香の作り手さんがいる。

「馬場水車場」

市街地から山間部の方へ車を30分ほど走らせたところに工房を構えている。

たくさんの木の緑、きれいな川など自然豊かな場所にある馬場水車場のお線香には大きく2つの特徴がある。

①原料は杉の葉とタブの葉の2種類のみ

水車の動力を利用した昔ながらのお線香づくり

今回は馬場水車場の特徴である原料や作り方について深掘りしながら書いていく。

工程はもちろん、土地との関係性や他のお線香との違いなど色々な角度からこのお線香を知ってもらいたい。

目次

原料は八女産の杉とタブの2種類のみ

写真を見ていただけるとわかるが馬場水車場のお線香の色は茶色だ。

お線香と聞くと紫や緑など色がついているものを思い浮かべるのではないだろうか。

なぜ馬場水車場のお線香は茶色なのか。

理由は、使っているのは杉の葉タブの葉だけだからだ。

つまり香料も着色料も一切使っていないのである。

まずは2つの原料とそこから生まれるお線香の特徴について書いていく。

八女産 杉の葉

乾燥中の杉の枝葉たち。説明してくださっているのが作り手の馬場猛さん。

使用している杉の葉は全て八女に自生している杉である。

豊かな自然で広大な森林面積を持つ八女では、江戸時代に杉の植林が奨励された。杉の生育に適した自然環境、歴史的な背景をもとに八女には現在もたくさんの八女杉が自生している。

上の写真にある杉の枝葉たちは馬場さんがいなければ使い道がないものである。

もともと建材などに使用されるこの杉、枝葉の部分は建材には使われない。

馬場水車場では不要になった枝葉の部分を使ってお線香の原料にしているのだ。

八女産 タブの葉

1番手前の薄い緑の木がタブの木。周りにある濃い緑の木は杉。

タブの葉は昔から線香の原料として使われてきた。

タブの葉には粘りがあり杉の葉に混ぜることによって線香を固める役割を担っている。

もともと暖かい地域で自生するタブは九州産のものが多く八女もその一つ。

九州の地でタブの葉や樹皮を粉にし、その粉を日本各地の線香製造に使われることが多かったという。

現在馬場水車場では自分達が使う量のお線香の粉を作っているが、かつてはお線香の粉を作り、栃木県日光市や兵庫県淡路市などの線香製造に使われていたそうだ。

なぜ燃えるの? 他のお線香との違い

馬場水車場のお線香。自分は家でゆったりするときによく使用する。

原料が杉の葉とタブの葉の2つだけというのはよく分かった。

しかし、疑問が残る。なぜ燃えるのか?市販のお線香とはなにが違うのか?

1つずつ見ていこう。

なぜ燃えるのか?

この答えは原料の杉にある。

杉の葉にはもともと油分が豊富に含まれており、その油分が燃えるというのが答えだ。

一般的に流通しているお線香は燃焼剤などを混ぜてお線香にすることも多いそうだ。

50年以上お線香の粉を作る馬場さんは、20種類以上あるという八女産の杉を見ただけでどんな粉ができるかがわかるという。

市販のお線香となにが違うのか?

乾燥している原料の杉の葉。

大きく違うのは色と香り。以下に簡単に違いをまとめた。

先述したように原料は杉の葉とタブの葉の2つのみ。

着色料や香料は一切使用していない。

決して全てのお線香ではないが国産という名前 でもお線香を作るときは、

【海外の安値な粉+少量の国産杉の粉+香料や着色料 】

というように様々な原料を混ぜて作られるという。

馬場水車場のお線香が1つ1つで色が微妙に違ったりと表情が違うのは自然の原料しか使っていないからである。

以上のように馬場水車場のお線香を知るうえで原料の特徴は絶対に外せない。

水車の動力を利用した昔ながらのお線香づくり

水車の写真。これは一部しか見えておらず実際はもっと迫力がある。

馬場水車場という名前の中に水車の2文字があるように水車の動力を利用したお線香づくりは大きな特徴だ。

八女市ではかつて水車を利用した線香づくりが盛んに行われていた。

しかし、水車の動力を利用した作り手さんはごくわずかである。その背景には海外の品が増加したこと、水力ではなく電力が普及したことなどがあげられる。

ここからはどのようにして水車の動力を利用してお線香がつくられるのか工程を中心に書いていく。

お線香ができるまで

馬場水車場のお線香ができるまでの工程を大きく4つに分けて紹介していく。

①杉の葉の乾燥

②粉にする

③成形

④乾燥

①杉の葉の乾燥

写真の枝葉はまだ青が残っている。60~70%乾燥している状態だと馬場さんは言う。

最初の工程が原料の杉の枝葉を乾燥させること。

しっかりと乾燥させることがとても重要で、乾燥の良し悪しで出来上がる粉の質が決まるという。

まずは写真のように束になった杉の枝葉を外で自然乾燥を行なう。

その後、火室(ひむろ)という小屋のような場所で熱を加えて乾燥させる。

熱を加えて十分乾燥させる火室という場所の中。

隣に火を起こす場所がありそこで使用しない杉の枝葉を薪として利用し火を起こす。

その熱をこの火室の下に送り熱をこもらせて十分に乾燥させていく。(サウナをイメージしてもらえるとわかりやすい。)

②粉にする (水車の動力を利用したお線香づくり)

粉をつくる製粉場の様子。

十分に乾燥させた杉の葉は次に写真の製粉場で粉へと変わる。

15本ある杵でお餅つきのように叩いて細かい粉になるまでじっくり粉砕していくのだ。

杵をなんの力で動かすのか。

それは水車の動力である。以下の動画を見てほしい。

杉でできた大きな水車が回る様子。

製粉場の隣にある直径5.5mの水車が回ることによって15本の杵が動くという仕組みだ。

さらにこの水車は電力で動いているのではなく近くを流れる川の水の力で動かしている。

水道の蛇口をひねって簡単に水量を調整するわけではなく、雨によって水量が変わったりする自然の力を調整するのだからとても難しいことがわかる。

叩いて粉状になった杉の葉

水車の動力によって叩いて細かく粉砕されて写真のように粉状になる。

(タブの葉も同じように水車の動力によって粉状になる)

③成形

 粉場になった杉の葉とタブの葉はその後、比率や水分量を調整しながら混ぜてお線香の粉となる。

そしてこの工程でお線香の細長い棒状の形を作っていく。

馬場さんの目の前にある機械上部の筒から混ぜた原料を入れると、ところてんのように出てくるそうだ。

この作業を素人がやると曲がってしまったり、折れてしまったり、短くなったりとうまくいかないと馬場さんは言う。

④乾燥

成形されたお線香を乾燥させる乾燥室の中。

細長い棒状の形になったお線香は最後に乾燥の工程に入る。

2日間ほど乾燥させた後長さを整えてお線香は完成する。

こうしてできたお線香は束にして箱詰めまで馬場さんご夫婦で行っている。

まとめ

色々と丁寧に説明をしてくださった馬場さんは、『この短時間だけでは理解はできない。2,3日ここにこもらないと理解はできない。』という。

今回色々教えてくださったことはあくまでも目に見える一部分なのだと思う。

馬場さんの長年の経験からなる技術はもちろん、感覚や木や水などの自然の力を見る力、そして自然と向き合う姿勢など決して外からは見えないたくさんの要素がこのお線香に詰まっているのだと感じた。

そして、それを知ると1本1本のお線香の見え方が変わる。

全てを理解することはできなくても、お線香が何で作られて、どこで、誰が、どのように作っているのかを知る、もしくはほんの少しだけでも興味を持つことが自分はすごく大事かなと思う。それはお線香に限らず日本中・世界中にたくさんあるものづくり全てに言えること。

この記事が少しでも知る、興味を持つ誰かのきっかけになれば嬉しい。

「お線香を買う人がいる限りまだまだ作るよ。」

何より元気のある声と優しい笑顔で言った馬場さんのこの言葉はものすごく力強かったし嬉しかった。

(完)

馬場水車場のお線香こちらから購入できます!!

https://unagino-nedoko.net/product/tax_maker/baba/

参考文献

うなぎの寝床 https://unagino-nedoko.net/maker/2637/

藤井弘章「線香・蚊取り線香原料としてのタブ粉の歴史」

https://kindai.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=219

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この記事を書いた人

足袋の町、埼玉県行田市で生まれ育つ。
海外から帰国後、日本のものづくりに心を奪われ続ける。
歴史や背景などのストーリーがあるもの、作っている人の思いが詰まっているもの、こだわりで溢れているものに心が熱くなる。
服、旅行も好き。そして人の笑顔も好き!!

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